大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成4年(ヲ)2091号 決定 1992年2月28日

当事者 別紙当事者目録記載のとおり

主文

1  相手方は、買受人が代金を納付するまでの間、別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)に対して行っているすべての工事を中止せよ。

2  相手方は、本件建物について、買受人が代金を納付するまでの間、内装、外装、改築などの一切の工事をしてはならない。

3  相手方は、本件建物について、買受人が代金を納付するまでの間、その占有を他人に移転し、または占有名義を変更してはならない。

理由

1  申立人の本件申立の趣旨及び理由は、別紙「売却のための保全処分申立書」記載のとおりである。

2  よって、判断するに、一件記録によれば、次の事実が一応認められる。

(1)  申立人は、相手方に対し、平成二年一月三〇日、金三億五〇〇〇万円を貸し付け、その際これを担保するため、相手方は、本件建物及びその敷地(以下「本件土地」という。)に抵当権(共同担保)を設定した。

(2)  申立人は、平成三年四月一二日、当庁に対し、本件土地建物につき、競売の申立てをし、同月一五日、当裁判所は、競売開始決定をした。

(3)  執行官が、平成三年五月一三日、現況調査に赴いた際、本件建物は、相手方の元取締役であり、本件建物の元共有者であった岡崎和彦が家族とともに住居として使用していた。

(4)  当裁判所は、平成三年七月一八日、本件土地建物につき、最低売却価額を三億四五三四万円(一括競売)と定め、同年九月二六日、売却実施命令(期間入札、開札期日同年一二月一一日)を発したが、適法な入札がなかったので、平成四年二月一四日、再度入札期間を同年四月一六日から同月二三日までとして期間入札の方法による売却実施命令を発した。

(5)  本件建物には、前記第一回目の期間入札の開札期日の前日である平成三年一二月一〇日受付で、株式会社インターナショナルエクスプロストのために賃借権設定仮登記がなされた。また、同日付で、同会社のために、本件土地にも賃借権仮登記がなされるとともに、同日付で、同会社は、本件土地についての、根抵当権設定仮登記の移転仮登記をした。

(6)  申立人の社員が、平成四年二月二〇日、本件土地建物の見分にいったところ、本件建物の周囲全体に足場が組まれ、内外装工事がされていた。同社員は、現場の作業員に、工事内容等につき尋ねたが、詳しくは語らず、誰かが入居するらしいとのことであった。また、従前、本件建物に居住していた岡崎和彦は、現在居住していない。

3  以上の事実、すなわち、現在、本件競売手続は、二回目の売却実施命令が発せられた段階にあること、本件土地建物には、平成三年一二月一〇日受付で賃借権仮登記がなされていること、本件内外装工事をしている工事人は、申立人の社員の質問にあいまいな返答をしていること、などに鑑みれば、相手方は、本件建物につき、内外装工事をしたうえ、本件建物を第三者に賃貸する等して占有を移転しようとしているものと推認される。ところで、本件建物を第三者が占有するに至った場合には(本件では、特に暴力団員や執行妨害を目的とする者が占有する可能性が十分ある。)、買受人の出現が困難になることは顕著な事実であり、そのために、本件土地建物の価値は著しく減少することになる。以上によれば、申立人の行為は、本件土地建物の価値を著しく減少させようとするものであるので、当裁判所は、申立人に金五〇万円の担保をたてさせたうえ、主文のとおり決定する。

(裁判官松丸伸一郎)

別紙当事者目録

申立人 オリックス・インテリア株式会社

代表者代表取締役 松井静雄

代理人弁護士 今井和男

同 古賀政治

同 横山雅文

相手方 株式会社ニッシン

代表者代表取締役 原嶋弘

別紙物件目録

所在 東京都大田区田園調布三丁目四二番地二〇

家屋番号 四二番二〇

種類 居宅

構造 木造瓦葺二階建

床面積 一階 59.89平方メートル

二階 56.34平方メートル

(現況) 地下室あり

床面積 約12.39平方メートル

別紙売却のための保全処分申立書

申立ての趣旨

債務者は、別紙物件目録記載の不動産に対して行っている全ての工事を中止せよ。

債務者は、別紙物件目録記載の不動産に対して、内装、外装、改築など一切の工事をしてはならない。

債務者は、別紙物件目録記載の不動産に対する占有を他人に移転し、又は占有名義を変更してはならない。

申立ての理由

1 債権者は債務者に対し、平成二年一月三〇日に金三億五〇〇〇万円を貸付け、その際別紙物件目録記載の不動産(以下、「本件不動産」と言う。)に対し、抵当権(共同担保)を設定した(付属書類①ないし③)。

2 その後、債務者の経営悪化により本件貸金の返済が遅滞するようになり、子会社振出しの小切手につき不渡事故が発生するに至り、債権者は平成三年四月一二日、御庁に対して不動産競売を申立て、同月一五日に不動産競売開始決定がなされた(付属書類④)。

3 本件競売記録の物件明細書(付属書類⑤)の備考欄によれば、「前共有者岡崎和彦が使用借により占有中」となっているが、現在は占有していない。

本件不動産は、前共有者岡崎和彦らが債務者に売却したものの、そのまま使用していたものであり、岡崎和彦は債務者の元取締役であった。

4 本件競売の最初の入札期間が平成三年一一月二七日から一二月四日までで、開札期日が一二月一一日午前一〇時三〇分であったが、入札者がいなかった。

最低売却価額は、三億四五三四万円であった(付属書類⑥)。

5 再度の入札期間が平成四年四月一六日から四月二三日までで、開札期日は四月三〇日午前一〇時三〇分と指定された。

尚、最低売却価額に変化はなかった(付属書類⑦)。

6 ところが、債権者担当者が平成四年二月二〇日に再度の入札に備え本件不動産を点検に行ったところ、本件不動産の周囲全体に足場を組み内外装とも大幅な改装工事に着工していた(付属書類⑧)。

現場の作業員に尋ねたところ、詳しくは語らなかったが、誰かが入居するらしいとのことであった。

7 平成四年二月二〇日に本件不動産の登記簿謄本を取寄せたところ、港区六本木三丁目三番一六号の株式会社インターナショナルエクスプロイトなる会社が、渋谷区道玄坂一丁目一〇番五号の株式会社ジャパンエクセレントカンパニーの根抵当権仮登記を平成三年一二月一〇日受付の登記で、譲渡を原因として移転仮登記を経由したり、新たに賃借権設定仮登記を設定したりしている。

8 これらの事情に照らせば、恐らく債務者は競売の円滑な執行を妨害する意図の下に、このような大幅な内装、外装の工事をし、第三者に占有をせしめて占有減価を企み、併せて更に一層入札しにくくするための行為を行っているものとしか考えられない。

よって、一刻の猶予もなく頭書の申立に及んだ次第である。

9 尚、債務者は従来の本店所在地のビルを退去している。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例